この記事では、交通事故の被害者に保険金を支払うのが誰なのか?を説明します。加害者の加入する自動車保険の他にも、自賠責保険や人身傷害保険という保険もあります。
保険制度は意外にも複雑ですので、一度整理しておきましょう。
3つの自動車保険
知っておいてもらいたいのは、交通事故で登場する保険には、
①自賠責保険
②任意保険
③人身傷害保険(「ジンショウ」と略されます。)
の3つが存在するということです。
まずは、自賠責保険と任意保険の役割をキチンと理解することが大切です。
自賠責保険とは
みなさんも、自動車を購入したときに、「自賠責保険への加入が必要です」と販売員から説明をうけたことがありますよね。
では、自賠責保険とはいったい何なのでしょう。
自賠責保険の全体像
自賠責保険とは、車の所有者に加入が義務付けられている自動車保険です。
加入者が事故を起こしたときに、加入者に代わって補償金を支払ってくれます。
ただし、その補償範囲は、人的損害に限られます。
つまり、事故で負ったケガや、ケガにより働けなくなった場合に生じる損害などのみ補償され、自動車の修理にかかる費用については、補償されません。
また、補償の金額には、上限が設けられています。傷害について120万円、後遺障害の程度に応じて増額、死亡だと3000万円となっています。
みなさんも、交通事故被害にあったときに補償金を支払うよう自賠責保険に請求することが可能です。
自賠責保険は強制加入の自動車保険
車の所有者は、必ず自賠責保険に加入しなければなりません。
なぜ、自賠責保険への加入が義務付けられているのか。ズバリ「車は凶器になる」からです。車の運転には、人に危害を加える危険性が潜んでいるのです。
交通事故の加害者は、被害者に賠償金を支払う義務を負います。
このとき、「私にはお金がありませんので、賠償金を一銭も払えません」などと加害者から言われたら、みなさんはどう感じるでしょう。
もちろん、被害者が受けた不利益の全てをお金で埋め合わせることなどできるはずがありません。ですが、お金を支払ってもらうという形でしか補填されない損害もある、というのが現実だと思うのです。
それにもかかわらず、一銭すら支払われない…こんな残酷な結末に、誰が納得できるでしょう。
そこで、加害者に資力がないため被害者の不利益が補填されないという最悪の事態を回避するため、車の所有者に自賠責保険への加入を強制し、最低限の補填がなされるようにしたのです。
補償の範囲は「人的損害」のみ
自賠責保険の補償範囲は、人的損害のみとなります。
裏を返せば、物的損害については、自賠責保険の補償が及ばないということになります。
人的損害とは、ケガの治療や通院にかかった費用、欠勤等による減給、事故でケガを負ったことによる精神的苦痛などをさします。
この他にも、後遺障害が残存した場合に考慮すべき損害等も存在しますので、損害費目を詳しく知りたい方は「損害費目の種類と過失割合~示談金提示額の見方」をご覧ください。
自賠責保険の補償金額
注意していただきたいのは、「傷害だと120万円、後遺障害の程度に応じて増額、死亡だと3000万円」というは、あくまで上限であるという点です。
つまり、事故に遭えば必ずこの金額が支払われる、のではないということです。
法律相談に来られる方の中には、自賠責保険に請求すれば120万円が確実に支払われると勘違いされている方も時々おられます。
しかしながら、実際に受けた損害を超える保険金が自賠責保険から支払われるということはありません。
例えば、事故の被害者に幸いにも後遺障害が残らなかった事案において、実際の損害額が50万円であれば、120万円ではなく50万円が支払われるにとどまります。また、実際の損害額が150万円であっても、自賠責保険から支払われる保険金は120万円だけということになります。
自賠責保険のまとめ
□ 自賠責保険は、被害者の損害を最低限埋め合わせる保険といえる
□ 対象範囲は、人的損害のみであり、自動車の故障などの物損には及ばない
□ 自賠責の上限額の範囲内で、実際の生じている損害相当額が支払われるにとどまる
任意保険とは
みなさんも、交通事故に関するニュースなどで「加害者は任意保険に加入しておりませんでした」というフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか?任意保険とは何なのでしょうか。
任意保険の意味
任意保険とは、交通事故の加害者が契約している保険のことをさします。
既に説明した自賠責保険とは違い、加入することを強制されない自動車保険であることから「任意」保険と呼ばれています。
任意保険の役割
みなさんが事故にあった場合、任意保険会社の担当者とのやり取りがほとんどでしょう。
それもそのはず。事故被害者の治療費や通院交通費、休業損害などについて、基本的には任意保険会社が対応してくれます。
もっとも、このように事故被害者の利益に資する対応をしてくれる任意保険ですが、気をつけなければならないことも山ほどあります!
任意保険の立場
任意保険と付き合っていくうえで予め知っておかなければならないのは、任意保険(の担当者)が自社の利益も考慮しなければならないということです。
※なお、このような態度を批判するものでは全くありません。会社は利潤を追求する組織ですから、出ていくお金(補償金)が少ない方がよいのは当然です。
特に知っておいてもらいたいのは、任意保険会社による一括対応という仕組みです。この仕組みを知っておくことで、任意保険会社から示談金の提示を受けた際に、勘違いして低い金額で示談することを回避できるようになると思います。
まとめ
いかがでしょう。自賠責保険と任意保険について、基本的なところを抑えることはできたでしょうか?
自賠責保険は、人的損害についてだけ、上限額の範囲内で保険金を支払ってくれます。
任意保険会社は、全員が加入している保険ではないけれども、加入している場合には、治療費や通院交通費の面倒をみてくれます。
自賠責保険の上限額や任意保険の一括対応については、別の記事にまとめたいと思っています。