交通事故でケガをしてしまった場合、入院や通院のために仕事を休まなければいけないときがありますよね。
この場合には、仕事を休んだことによる減収分を「休業損害」として加害者へ賠償請求することができます。
それでは、専業主婦(主夫を含みます。)の方が家事をすることができなかった場合はどうでしょう?
会社員の方であれば、お仕事を休むことで給料が減ったり、有給休暇を消費したりすることになりますから、休業損害が発生していることは感覚的にも分かると思います。
ですが、専業主婦には実収入がありませんから、家事を休んだとしても収入が減るということもありません。とすると、専業主婦には休業損害がまったく発生しないとも考えられそうです。
この記事では、専業主婦も休業損害を請求できることや損害額の計算方法などについて説明していきます。
専業主婦の休業損害に関する知識をつけ、不利益をゼロにできるようにしましょう!
専業主婦(主夫)も休業損害を請求できる!
とても大切なことなので、結論から言います。
専業主婦(主夫)の方が事故の影響で家事をすることができなかった場合には、会社員などが仕事を休んだ場合と同様に、休業損害を請求することが可能です!
この知識がなかったために、主婦として家事に従事できなかったことで発生していたはずの休業損害の賠償を受けられなかったというケースが意外にも多発しているようです。
主婦(主夫)が家事をすることができなかった場合には休業損害を請求できる!
このことは、絶対に覚えておいてください。
主婦の休業損害は、略して「主婦(主夫)休損」と呼ばれているので、
主婦(主夫)休損は請求できる!、、、あまりにも大切なので、呼び方を変えて繰り返しお伝えしました。
裁判でも、交通事故による受傷のため家事労働に従事できなかった期間について、休業損害を請求することができるとされており(最判昭和50年7月8日)、現在では、この見解が判例上確定しているといえます。
主婦が家で家事をしてくれなければ、家族外の誰かに家事労働を依頼して報酬を支払うこととなります。主婦が家事を担ってくれているからこそ、報酬の支払いをせずにすんでいるといえるのですから、家事労働により一定の経済的価値が発生するという考え方には十分納得できると思います。
主婦休損の計算方法(専業主婦の場合)
ここまで読んでいただければ、主婦休損も事故によって発生した損害として相手方に賠償請求できるということについてご理解いただけたと思います。
では、主婦休損は結局いくらもらえるのでしょうか?
主婦休損の損害額が、どのようにして算出されるのかについて解説していきます。
休業損害は「基礎収入日額×休業日数」で計算する
休業損害を算出する計算式は、基本的に
「基礎収入日額×休業日数」です。
基礎収入とは、休業損害を算定する際の基礎となる収入のこと
休業日数とは働くことのできなかった日数のこと
をそれぞれ指しています。
次の項からは、専業主婦の基礎収入、休業日数の考え方について解説していきます。
専業主婦(主夫)の基礎収入
専業主婦の基礎収入は、事故のあった年の女子労働者の全年齢平均賃金とする運用が実務上定着しているといえます。
これは、東京地裁(地方裁判所の略)・大阪地裁・名古屋地裁が、平成11年に発表した「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(三庁共同提言)で発表した内容にもとづいています(判例タイムズ1014号、62頁~)。
そして、女子労働者の全年齢平均賃金は、賃金センサス(「賃金構造基本統計調査」、いわゆる“賃セ”)の結果がまとめられた表に記載されています。以下に、各年における女性労働者の全年齢平均賃金額(産業計、企業規模計、学歴計)をまとめておきます。
令和元年 | 388万0100円 |
平成30年 | 382万6300円 |
平成29年 | 377万8200円 |
平成28年 | 376万2300円 |
平成27年 | 372万7100円 |
平成26年 | 364万1200円 |
ここでは、専業主婦(主夫)の基礎収入は、賃セにおける女性労働者の全年齢平均賃金とだけ覚えておいてください。
※主婦休損を計算するときには、基礎収入の日額を算出する必要があるので、平均賃金を365日(閏年の場合は366日)で割った金額となります。
ただし、なんにだって例外はつきものです!実は、主婦(主夫)の方がとても高齢で、十分な家事労働をすることができない場合などには、基礎収入額を賃セの平均賃金から減額して割り出す必要があります。
こちらについては、裁判例などを挙げて別の記事で取り上げたいと思います。
専業主婦(主夫)の休業日数
次に、専業主婦の休業日数について解説します。
会社にお勤めの方が事故のケガのため仕事を休んだという場合には、会社の協力を得て欠勤日数や有給休暇取得日数を把握することは簡単です。
ですが、専業主婦の場合となると、いつ、どれくらい家事に従事できなかったのかについて明らかにすることはとても難しくなります。
専業主婦の休業日数をどのように算定するかという点について、実務上よく用いられる方法の1つをご紹介します。
まず、休業損害の算定対象となる期間(家事を休業した期間)は、事故日から症状固定日(それ以上治療しても症状が改善されなくなったとき)までとされています。
ですが、主婦休損を「基礎収入日額×休業期間」で算出することはしません。
これは、休業期間中にまったく家事をすることができないかというと、そうではないためです。時間の経過とともに症状が少しずつ改善することにともない、徐々に家事ができるようになっていくというのが一般的ですよね?
そこで、どれくらいの期間、どれくらい家事を休まなければならなかったのかを、症状の改善度合いに応じて割合的に算出する方法がとられます。
これを、“期間逓減方式”といいます。
下の図をご覧ください。
これは、ある専業主婦の方が交通事故にあい、事故から30日間は入院していたため家事に従事できず、退院後60日間は松葉づえを使わなければ歩けなかったため家事の80%が、その後松葉づえを使わずに歩けるようになったものの首や腰の痛みから家事の40%が制限され、事故から180日後に症状固定にいたったという事案を想定しています。
この事案における休業日数を計算すると、以下のようになります。
(30日×100%)+(60日×80%)+(90日×40%)
=114日
つまり、180日間の治療期間のうち、114日分が休業日数とされることになるのです。
主婦休損の金額を計算する
ここまで、専業主婦の基礎収入や休業日数の考え方について解説してきました。早速、先ほどの事例をについて主婦休損を計算してみましょう。
<計算式>
基礎収入日額×休業日数
=(388万0100円÷365日)×{(30日×100%)+(60日×80%)+(90日×40%)}
=1万0630円×114日
=121万1820円
まとめ
ここまで解説してきた内容をまとめます!
【!注意!】今回は専業主婦の休業損害について詳しく解説しましたが、兼業主婦の場合には他にも検討しなければならないことがあります。
兼業主婦の休業損害については、別の記事で解説しますので、ご参照ください。