質問です。
皆さんは、もしも自分が交通事故の被害にあったら、どの時点で弁護士に相談しようとお考えになるでしょうか?
(参照記事:事故にあってから示談までの流れ)
この記事では、どのタイミングで弁護士に相談するのが最適なのか?という点について考えてみます。
弁護士の出番は交渉だけ⁈
私の講演に参加された方々に同じ質問をなげかけると、「交渉」とお答えになる方が圧倒的に多いです。
その理由としては、相手方保険会社とどのように交渉すれば良いのか分からないというものが多数です。
確かに、治療については、通院さえすれば担当医や理学療法士がリハビリの指導をしてくれますし、後遺障害診断書についても、しかるべき期間が経過すれば担当医の方から「後遺障害診断書を書いてあげるからひな形をもってきなよ」などと申し向けてくれます。また、後遺障害等級の審査についても、みなさんが審査の申請をしない場合には、任意保険会社が事前認定という手続きをすることで実施されます。
このようにみてみると、交通事故の被害者が積極的に関与する必要があるのは交渉段階になってからであるというのも、一面において真実であるように思われます。
しかしながら、治療や後遺障害診断書の作成、後遺障害等級の審査申請などにおいて、“しておくべきこと”をキチンとしておかなければ、適切な賠償をしてもらえません。
事例で学ぶ相談のタイミング
以下では、弁護士に相談する時期が遅かったために、妥当な金額で和解するまでに相当の苦労を要した事案を説明します。
いずれの事案も、最終的には妥当な解決をすることができましたが、あくまでも結果論にすぎません。早期に弁護士に相談していれば、時間的、費用的な負担をもっと減らせたはずです。
これらの事例を通じて、妥当な後遺障害等級を獲得するための方法として早い段階で弁護士に相談するべきであるとの認識をお持ちいただけると幸いです。
事例1:事故後1ヶ月で相談された事例
ある日、こんな相談の電話が私のところへかかってきました。
「1ヶ月程前、赤信号のため停車しているところに追突される事故にあいました。病院には既に通院していて、仕事も休んでいます。交通事故にあうのは初めてのことで、今後の流れについて伺いたく、お電話しました。」
よくある一般的な相談内容でしたので、来所してもらってから周辺事情を詳しく聴こうと考えました。
電話をくださった方に事務所へお越しいただき、事故からこれまでの状況などを尋ねていくと、事故後初めて病院に行ったのは、事故から2週間後であったことが分かりました。
どうやら、1年以上も前から計画していた海外での家族旅行をキャンセルする訳にはいかなかったようです。
この事例における最大の問題点は、初診日が事故後2週間経過後であるという点にあります。
初診日が事故発生日から離れている場合、妥当な後遺障害等級を獲得することが、かなり難しくなってしまいます。
これは、事故によるケガの症状が重い人は、すぐ病院へいくはずだという考えに基づいており、この考えは一般的に受け入れられているといえるでしょう。
この問題に対処するため、後遺障害等級の審査を申請する際、初診日が事故後約2週間後となってしまった理由について詳細に記載した書面を添付しました。その結果、初診が遅れたことの影響もなく、妥当な後遺障害等級を得ることができました。
もっとも、これはある程度合理的ともいえる理由があった事例です。どんな理由でも説明すれば足りるというものではありません。
この事例の相談者が事故にあった日に電話をしてくれていれば、何としても旅行へ行ってしまう前に一度病院へ行くようにアドバイスできたはずです。
また、旅行から帰ってきた後に事故による症状を詳細に説明できるよう、旅行している時点での症状を日記のように記録してもらい、その書面を自賠責に必要書類と一緒に提出するということもできたはずです。
この事例からは、
事故にあったら直ぐに病院へいくべきである点
仮に行けないとしても弁護士にその後の対処法をきいておくべきである点
を教訓として学んでいただきたいと思います。
事例2:後遺障害診断書が作成済みの事例
法律相談へこられる方というのは、何かしらの紛争に巻き込まれて八方塞がりの状態にありますから、ただならぬ雰囲気を漂わせながら事務所へこられる場合がほとんどです。
しかしながら、このときの相談者は、むしろ意気揚々といった様子でした。といいますのも、我々弁護士に手間をとらせまいと、後遺障害等級の審査の申請に必要な書類を全て集めたから申請だけしてくれれば良い、というのです。
ですが、後日お持ちいただいた必要書類を拝見させていただいたところ、後遺障害診断書の記載が、妥当な後遺障害等級を獲得できるような内容ではありませんでした。
後遺障害等級該当性の判断は、提出書類に記載された情報のみによってなされる書面審査の方式をとります。
ですから、妥当な後遺障害等級を獲得するためには、医学的所見の記載された書面の記載内容がとても重要です。
なかでも“後遺障害診断書”は特に重要です。この書面には、自覚症状や他覚的所見(可動域制限や切傷の跡の大きさ等)といった情報が記載されており、等級該当性の判断をする機関が最も気にする書面といえます。
この事例における最大の問題点は、相談者がご自身で後遺障害診断書の作成を医師に依頼してしまった点です。
この問題への対処として、後遺障害診断書を作成された担当医に記載内容の訂正を求める活動をしました。
元々の表現を若干変えるにとどまり、医学的判断を変えるような訂正ではないことや、後遺障害診断書作成後間もない修正依頼だったこと等もあり、快く修正依頼に応じてくださいました。
その成果もあってか、無事に妥当な後遺障害等級を獲得することができました。
事例紹介の記載からもお分かりのとおり、後遺障害等級の審査は診断書の「表現」によっても左右されるような極めて繊細な作業といえます。
依頼者がもう少し早く弁護士に相談しておられたら、後遺障害診断書の作成に先立ち、妥当な後遺障害等級を獲得するために必要な後遺障害診断書の形を医師にお伝えすることができたはずです。
まとめ
弁護士への相談は、できるだけ早い方が良いです。事故に遭った直後や遅くとも事故後1〜2ヶ月くらの時期には、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
初回相談を無料としている法律事務所が多いですし、ご相談の時点で弁護士が介入する必要のない事案でも、今後の方針などについて適切なアドバイスをもらうことができます。